Webディレクター未経験での転職者は少なくない。それが私の率直な肌感覚です。
そして志望する企業や年齢にもよりますが、転職のハードル自体もそれほど高くないと思っています。
上記について、どうしてそのように思うか。それは、webディレクターはスペシャリストというより、ジェネラリスト向けの仕事だと思っているからです。「webディレクターもwebに関する一つの専門的な職種だ」と言う人が少なからずいるかもしれませんが、私からするとwebディレクターは紛れもなくジェネラリストの仕事です。では、webディレクターに求められるスキルについて、実際の仕事に関連してみていきます。
ディレクション能力
webディレクターに最も求められるスキルは、ディレクション能力です。
web業界の人は「ディレクションする」というように現場で使っています。このディレクション(する)とは日常生活では馴染みのない言葉です。ではこのディレクションとはどういう意味なのか。ディレクション(direction)とは、方向、指示、指揮、命令といった意味があります。皆さんが、これらの言葉からイメージする仕事として最初に覆いつくのは、中間管理職ではないでしょうか。webディレクターの仕事は中間管理職の面が強い仕事もありますが、私はオーケストラの指揮者のようなものだと捉えています。オーケストラの指揮者、つまりwebディレクターはプロジェクトの指揮監督者なのです。クライアントの折衝、課題ヒアリングした後に、最適ソリューションの選定、プロダクトへの落とし込み、ステークホルダーの意見調整等々。
ここに挙げた仕事(タスク)は、ごく一部ですが、どれもプロジェクトを前進させ、納期までにクローズさせるためには欠かすことのできない重要なものばかりです。滞りなくプロジェクトを進めるために、これらのような仕事を、時には先回りして予防的に動きつつ、有機的に機能するようにすることがディレクション能力です。
スケジューリング・工数算出能力
先のディレクション能力で『時には先回りして予防的に動きつつ、有機的に機能するようにする』と述べましたが、これを達成するためには上流工程のスケジューリング・工数算出を的確に行うことがキーポイントです。例えば、スケジュールにバッファーを持たせること。プロジェクトを進めるにあたって、ある程度の仕様変更は当然のように起きます。どんなに密にミーティングを行い、話を詰めて、仕様に関するエビデンスを残していても、卓袱台をひっくり返すように仕様変更は起きます。
これを「話が違うから、容認できない」とあれもこれも突っぱねていると、融通が利かない担当者だと案件を失注してしまいます。従って、webディレクターは予めスケジュール決めの場において、予めある程度のバッファーをもたしてスケジュール交渉をする必要があります。工数算出も同じです。あるプロジェクトについて、新しい技術を使うことがマストの場合、なかなかキャッチアップが難しかったり、そもそも人材がほとんどいないことも有り得ます。それを単純に自社で負担するのではなく、ある程度概算でも工数を算出し、トータル開発工数に算入し、予算を確保しておくことがとても重要です。概算であっても、この工数計算の精度が悪ければ、クライアントも妥当性がないと認めてはくれませんし、自社が費用負担を被らなければならなくこともあります。従って、この工数算出能力を精度よくできるかが、webディレクターの腕の見せどころで、幸せなプロジェクトになるか地獄のプロジェクトになるかの運命が決まるのです。
コミュニケーション能力
webディレクターは社外・社内に関係なく、多くのステークホルダーとともにプロジェクトを進めていきます。プロジェクトの規模に比例するように、ステークホルダーも増えていきます。社外のクライアントと社内のエンジニア・デザイナーとの板挟みになることも(この辺が中間管理職のような仕事)。このような板挟みになることを恐れ、コミュニケーションを疎かにするとプロジェクトは必ず破綻します。時には、オンライン・オフライン、様々なツールを駆使し、面倒と思うことがあったとしても、プロジェクトを前に進めていくため、やりすぎとも思えるほどの丁寧で密なコミュニケーションをすることが大事なのです。
webディレクターは様々な経験が活かしやすいため、未経験でも転職のチャンスは多い
webディレクターに必要なスキル3点についてみてきましたが、皆さんもお気付きの通り、これらはwebディレクターだけが持ち合わせている特有のスキルではありありません。
最前線に出て批判を浴びながらも、誰かに嫌われながらも、プロジェクトを前に進めていかなければなりません。
例えば、最も重要なスキルのディレクション能力。
これは営業の人なら、誰もが持ち合わせているものだと思います。折衝、課題ヒアリング、最適ソリューションの提供。これらはまさに営業の真髄と呼ばれるものです。またスケジューリングや工数算出は、日々営業の人が作成している見積書作成業務です。コミュニケーション能力に関しては、営業の人じゃなくても、どの職種においても大事とされているスキルです。
このようにwebディレクターは、何か特別なスキルが求められるものではありません(最低限の知識は必要ですが、Webに関する必要な知識は働きながらでも十分習得することは可能です)。
未経験者であっても活躍するチャンスがあります。
ディレクションという言葉が様々な意味を持って幅があることからも、自分の長所を活かしたwebディレクターにもなれます。
例えば、営業の経験者であれば、外部とのクライアントワークが得意なwebディレクターにもなれますし、企画出身の人であれば、数字に強いwebディレクターを目指すのもいいと思います。このように、webディレクターはいかようにも自分の色が出せる余地がある仕事です。
web業界とは全く違った業界から転職して活躍されている方も多い職種でもあるので、未経験でも恐れることなく、自分の今までの経験を活かして、webディレクターへの転職に挑戦してください。
ただし、一緒に働くデザイナーやエンジニアから信頼を得るためには、やはり技術に関する理解も必要になってきます。
ディレクターの仕事のまわし方が下手でプロジェクトがうまく進まないとエンジニアやデザイナーに大きくしわ寄せが来ます。
上記で述べた工数算出においては、技術的なことや開発がどのようなフローで進んでいくのかを理解している必要がありますが、
完全な未経験者の場合、この部分はどうにもならないでしょう。
そのため、未経験でも確かにwebディレクターになることはできますが、周りから信頼され、頼りにされるディレクターになるためには、転職してからの勉強や努力が必要なことは頭に入れておきましょう。